ユニバース is EXPANDING!

2002年10月に、サーバuniverse.riken.go.jpの廃止に伴い、文中の電子メールアドレス及びURLを一部変更致しました。
電子メールアドレスを"@universe.riken.go.jp"から"@chimons.org"に、URLを"http://universe.riken.go.jp/"から"http://universe.chimons.org/"に、それぞれ修正してあります。

亀谷 和久 (東京大学大学院理学系研究科物理学専攻)
松浦 匡 (東京大学教養学部生命・認知科学科)

1.ユニバースとは

ユニバースは、科学技術館(東京都千代田区、北の丸公園内)の4階にあるサイエンスシアターである。72の客席と、400インチのスクリーンを備えている。高速のコンピュータで合成された3次元コンピュータグラフィックス(CG)やハイビジョンLDなどの映像が200インチのハイビジョン投影機でスクリーンに映し出される。ここで毎週土曜日、14時30分からと15時30分からの2回、「天体ライブショウ」(以下、ライブショウ)が行われている。1996年4月に第1回が行われて以来、約4年間で400回近く開催され、のべ15,000人以上の観客が来場した。この天体ライブショウの主な特徴は、時差を利用した昼間の天体観測と3次元CGを用いた太陽系、銀河衝突、重力レンズ効果などのリアルタイムシミュレーションである。このような特徴を利用して科学(主に天文)をわかりやすく解説するコーナーがいくつかある。ライブショウの司会進行はホストと呼ばれる人が担当する。ホストを務めるのは、ユニバースのシステムを提案された戎崎俊一さん(理化学研究所情報基盤研究部)をはじめ、半田利弘さん(東京大学大学院理学系研究科附属天文学教育研究センター)、川井和彦さん(理化学研究所研究基盤ツール開発推進グループ)、縣秀彦さん(国立天文台天文情報公開センター広報普及室)など、主に天文学の研究者である。ホストの他に、スクリーン脇の操作卓にアシスタント2人がいて、コンピュータの操作や会場の照明、音量などの調整を担当する。毎回のライブショウでは、ホストがいくつかコーナーを選び、全体で約40分の構成にする。各コーナーの内容は基本的に次のようなものである。

この他にも、火星に生物がいたかもしれないというNASAの発表の後には火星の話をしたり、しし座流星群の極大が近いときには流星群の仕組みを説明したり、日食が起こる日が近いと日食を再現したりして解説を加える(太陽系シミュレータでは、流星雨を降らせることも、日食を再現することもできる)など、その時期の話題に臨機応変に対応している。

ユニバースではオープン以来、日本SGI社製グラフィックワークステーションPower Onyxを用いて3次元CGを合成したり様々な画像を表示してきた。最近これに代わるものとして、WindowsNT上で動くライブショウのシステムを開発し、OnyxからWindowsNTへのソフトウェアの移植を少しずつ進めてきた。そして昨年末からはWindowsNT単体でライブショウを上演できるようになった。

2.ライブショウの運用

ライブショウの運用はアルバイトの学生集団「ちもんず」(母体となっている東京大学の天文サークル、地文研究会天文部の名称からこう呼ばれるようになった)が行ってきた。ちもんずのメンバーは現在約15人で、筆者2人も含まれる。ユニバースを作る計画が進んでいた約4年前に戎崎さんから誘って頂いたのが、我々がユニバースに関わるようになったきっかけだった。当初は理化学研究所に通ってライブショウで使うソフトウェアの開発に参加していた。そして現在のちもんずの主な仕事は、ライブショウのアシスタント、ソフトウェアの開発及び改良、メーリング・リスト(ML)及びウェブページの管理である。

アシスタントは、まずライブショウの約1週間前にゲストに電子メールを送り、ゲストコーナーで使う画像の有無、ファイル形式を問い合わせる。そしてゲストからの回答に対応する。当日はライブショウが始まる約1時間前にはユニバースに来て、操作卓の準備、コンピュータの起動、ゲストの画像の準備、ソフトウェアの動作確認、HOU望遠鏡が使えるかどうかの確認(アメリカ側のスタッフから電子メールで連絡が来る)、使える場合は試験観測などを行い、その後ホスト、ゲストと進行について簡単な打ち合わせをして開演に備える。コンピュータのトラブルなどで準備が開演時間ぎりぎりまで長引くことはよくあるのだが、いつも時間までには何とか始めている。

ライブショウ中は、事前の打ち合わせを踏まえてソフトウェアの操作、照明や音量の調整、重力レンズで歪める観客の顔写真の撮影、お土産用画像の印刷などを行う。ライブショウ中には色々なトラブルが起こったり、ホストから予定外の要求が出されることもあるが、極力観客に悟られないよう迅速に対応している。操作卓は客席から見えるように配置してあるためアシスタントが慌てている様子も観客に見えてしまうのだが、これもライブ感を高めるのに一役買っているようである。

ライブショウ終了後、機材の後片付けを行い、その日の報告書をユニバース関係者のMLに投稿する。報告書には、その日の上演内容や構成、進行上の注意や次週のアシスタント担当者への引き継ぎ事項、その他問題点が記される。毎回アシスタントが異なるため、情報を共有しライブショウを円滑に運用する上で報告書は重要である。

さらに、およそ月に1回の割合で科学技術館閉館後に定例会を開いている。ちもんずのメンバーは出来る限り集まり、さらに戎崎さんと科学技術館の担当者が出席する。この定例会はユニバースに関する意思決定のほとんどがなされる場であり、主に毎週の報告書を参考にしてライブショウの運営やソフトウェアの問題点への対応を話し合う。また、アシスタントの分担決めも行う。その他、ML上でも活発な情報交換や議論が行われている。

ソフトウェアの開発は、外注に頼らず、ちもんずのメンバーである高幣俊之さん(東京大学大学院工学系研究科計数工学専攻)を中心に行われている。内部の人間が開発しているので、報告書や定例会で指摘された問題点や要望に素早く対応できる。また様々なイベントのために新規開発したり機能を増やすことが多い。ちもんず内で意見を出し合いながら開発を進めているうちに、徹夜になってしまったこともあった。新しく開発されたソフトウェアは、ある程度形になっていれば未完成でもすぐにライブショウで試される。そうすることで問題点が浮き彫りにされ、より効果的に演出できるように改良されていく。

ユニバースの広報のため、ちもんずはウェブページの作成及び管理も行っている。ライブショウの内容紹介、ゲストやホストの日程、イベントの告知などを公開中である。

3.教育効果

ライブショウでは、研究者が直接観客の前に立って話し、科学を妥協なく伝えることが大きな特徴のひとつである。研究者は普段から観客を楽しませることに慣れているわけではないのでどうしても難解な言葉づかいになってしまいがちだが、そこは3次元CGや鮮やかなカラー写真を巧く使い、観客を飽きさせないように工夫している。特に3次元CGは強力で、例えば太陽系シミュレータでは全体を俯瞰して時間を進めたり視点を変えるだけで、ケプラー運動や太陽系が円盤状のものから出来たであろうということが視覚的に理解できる。また、重力レンズシミュレータでホストや観客の顔写真を変形させると会場から笑いが起こる。このような反応があると、操作をしているアシスタントとしても嬉しいものである。ライブショウの客層は小学生低学年から中高年まで多岐にわたるが、難解な内容を理解してもらうことよりも、このように感覚的に理解して面白そうだと思ってもらうことに重点をおいている。また、ライブという特徴を生かして観客に可能な限り参加してもらい、生の研究者と触れ合う機会を多くするようにしている。具体的にはライブ観測の対象天体を決めてもらったり、シミュレーションの初期パラメータを決めてもらう他、色々な質問を観客に投げかけ、答えてもらっている。答えてくれた人にはお土産にカラーの天体写真をあげることで、より積極的に参加できるように工夫している。これは好評で、写真が欲しくて何度も答える子もいる。観客の中にはライブショウを気に入って毎週熱心に見に来てくれる人がいる。このようなリピーターは大切にしたい。毎回内容を変えることである程度は対応しているが、飽きさせないためにさらに努力する必要があるだろう。

ユニバースに興味を持ってくれた観客の例として、木下英雄さん(当時、東京大学教育学部附属高等学校2年)がいる。彼は銀河衝突シミュレーションに興味を持ち、高校の卒業研究に使いたいと申し出てきた。これはちもんず、特に高幣さんがサポートして実現し、1997年12月頃から1998年8月まで毎週のようにユニバースに来てライブショウ終了後に研究を行っていた。その研究は第5回全国高等学校理科・科学クラブ研究論文(工学院大学主催)優秀賞(東京都)を受賞された。

4.外部イベントとの連携

通常のライブショウの他に、科学技術館や外部の機関で、ユニバースのシステムやノウハウを活かして多くのイベントを展開している。主なものを以下に挙げる。

また、システムをWindowsNT上に移行してからは科学技術館以外の施設に「出張」してライブショウを上演できるようになった。この「出張ユニバース」は、ライブショウを行うために必要なシステムをインストールしたパソコンと可搬型プロジェクタを持ち込むので、特殊な設備がなくても(スクリーンと客席、そして電源さえあれば)どこでも行うことができる。これまでに埼玉県和光市、山口県下関市、岡山県浅口郡里庄町で実施したが、非常に好評だった。今後は、より頻繁に出張して全国各地の施設でライブショウを開催したいと考えている。

5.問題点及び対策

毎週の報告書や定例会での話し合いを受けて、問題点が指摘されるたびに改善してきたが、対応しきれていないものや、新しい問題もある。

・ホスト、ゲストの固定化
天体ライブショウという名の通り、現状ではホストが天文学者に限定されているため話題が天文分野に偏っている。約4年間続けてきたので新鮮味に欠けるという印象もある。ゲストは様々な分野から呼んでいるが、最近はやはり固定化してしまっている。常に新しいゲストを呼ぶようにしてきたが、これまで以上に努力を続けていく必要がある。また、これまで培ってきたノウハウを活かして他の分野のライブショウを行うことも考えている。
・ちもんずの後継者
ちもんずによる運用はこれまで非常にうまく機能してきた。しかし基本的にアルバイトの学生なので、いずれは卒業、就職していく。開始から4年が経ち、当初からのメンバーで就職してユニバースに来られなくなる者が出てきた。新しいメンバーは少しずつ加わっているものの、継続的に今の運用体制を続けられるという保証はない。特にソフトウェア開発者は現状でも不足している。新人を広く募集する、科学技術館の職員の方に作業を受け継ぐなど、対応を検討する必要があるだろう。

謝辞

様々な形でユニバースにお力添えを頂いているホスト及びゲストの皆様、科学技術館の方々、そしてちもんずのメンバーに謝意を表します。

また、今回このような執筆の機会を与えて下さった渡部義弥さんに感謝致します。

Webページ

ちもんずによるユニバースの紹介
http://universe.chimons.org/
科学技術館
http://www.jsf.or.jp/exhibit/theater.html

参考文献

戎崎俊一、ユニバース、天文月報、Vol.90、p423、1997年


以上の記事は、天文教育普及研究会発行の『天文教育』2000年3月 Vol.12 No.2 通巻第43号17ページから21ページに「実践報告」として掲載されたものです。
筆者の一人である松浦 匡が、同誌編集委員会の正式な許可を得て、HTML文書としてこのウェブサイトで公開しています。
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